15分 4~5人台本 男:2~3 女:2~3 著:メイロー
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死神さんとジーパン幽霊
著:メイロー
登場人物
死神……女、お馬鹿な人
紗希……女、お馬鹿な子
兄、良い兄……男、1人2役な感じ。声質がっつり分けて、テンポ良くやれば良いかも。
隊長……男女どちらでも。苦労人
おっさん……男。ちょい役。声色変えられるなら隊長と兼任でも
アニメやラノベ原作ラジオドラマを意識して書いた作品。BGMとSEでことが必須だと思います。工夫してみてください。
兄『ジーパンって食べられると思うんだ』
紗希『それがお兄ちゃんの最後の言葉でした。お兄ちゃんは真面目な大学生で冗談なんか言わない人だった。だけど、ある朝、お兄ちゃんはそう言ったんです。「死ぬ気で頑張れば食べられる気がするんだよな」って。その日、お兄ちゃんは……うぅ。助けてください。このままでは私、お兄ちゃんの幽霊に呪い殺されちゃう!』
死神『え? なにこれ?』
隊長『SOSテレビ』
死神『いや、そうじゃなくて、全然状況がわからないんだけど』
隊長『紗希ちゃんのお兄さんをつれてきてください。悪霊になって紗希ちゃん追いかけてますから。早急に』
死神『なんで?』
隊長『キミの職業は?』
死神『死神』
隊長『仕事は?』
死神『彷徨える魂を死地へと導くこと』
隊長『それが答えです』
死神『いや! あたしが聞きたいのはこのあんちゃんがなんで紗希ちゃんを追いかけているのかってことだから!』
隊長『ばかですか? そんなこともわからないとは。品行方正真面目で面白味のないこのお兄さんは『ジーパン、食べられるよなぁ』なんて無茶苦茶面白いこと呟いて死んでしまったんです。悔しいと思います。悔しいに決まっています。 まさに人生最後にして最大の汚点とも言えるでしょう! その事実を知っている紗希ちゃんを亡き者にしようとするのは当たり前のことです!』
死神『そうかぁ?』
隊長『冗談です。お兄さんの魂はちゃんと天国に行きました。しかし、本当に恥ずかしかったんでしょうね。後悔の念だけが形となって紗希ちゃんを狙っているんですから。人の命を奪うまでの力はありませんが、紗希ちゃんが怖がっていますし、助けてあげても罰はあたらないでしょう』
死神『助けるのはやぶさかじゃねーけど、なんであたしのとこにはこんな変な仕事ばかり回ってくるんだよ。もうちょいさ、天寿を全うして幸せに死んだじーさんとか』
隊長『それは天使の仕事です』
死神『なら、人を食い殺す程の力量を持った悪霊とか』
隊長『それはキミには無理ですね』
死神『人事に連絡して良いか? 上司がまともな仕事を与えてくれないって』
隊長『……わかりました。次はもう少しまともな仕事を探してきてあげます』
死神『ぜったいだかんな!』
隊長『はぁ……』
隊長『ダメな部下を持つと上司は苦労するっていうのは本当ですね。自分の力量ぐらいまともに判断して欲しいものです』
死神『えーっと、紗希ちゃん紗希ちゃん……あ、いた』
紗希『いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ』
兄『まてぇえええええええええええええええ! 忘れろぉおおおおっ! 頼むから忘れてくれぇええええええええっ!』
紗希『忘れたーっ! 忘れたからっ! 私、お兄ちゃんが『ジーパン食べれるかも』なんて
言ったことこれっぽっちも覚えてないからぁあああああああっ!』
兄『しっかり覚えてるじゃないかぁっ!』
紗希『いやー! 忘れた! 今度こそ忘れた! むしろ私にお兄ちゃんなんかいなかった!』
兄『兄ちゃんの成仏ぐらい願えよっ!』
紗希『成仏してください!』
兄『このまま死ねるかっ!』
紗希『いじわるだーっ!』
紗希『こんにちは! 突然ですが私ピンチです! お兄ちゃんが交通事故で死んじゃって悲しみに暮れる中、突然現れたのはお兄ちゃんの幽霊! 泣いてばかりの私を慰めに来てくれたんだと思ったのに、言うに事欠いて『俺のために死んでくれ』って、なんでやねんっ! こんなのお兄ちゃんじゃない! 私のお兄ちゃんは優しくてかっこよくて私に甘いの! それがお兄ちゃん! どんなに姿形がお兄ちゃんだろうと私は認めない!』
紗希『どっか行ってよ! 偽物お兄ちゃん!』
兄『俺は本物だ!』
紗希『嘘! じゃあ証拠見せてよ!』
兄『紗希の一番好きな食べ物はショートケーキだ!』
紗希『それ二番! 一番はなめろう!』
兄『え? そんなもの食べたことあったっけ?』
紗希『昨日食べた!』
兄『俺が死んだのは先週だぁああああああっ!』
死神『おもろい兄妹だなぁー。さて』
兄・紗希『うわああああああ(きゃあああああああ)』
兄『な、なんだ!?』
紗希『閑静な住宅街、私の目の前に隕石が墜ちてきました! すごい風が吹いて私はしりもち。必死に周囲を確認中!』
兄『何かが落下したその場所は土煙によって遮られていた。風に流されるにつれ、視界が晴れる。そこには人影が……』
死神『この世に命がある限り、私の仕事はなくならない。公務員より安定安泰! 給料安いが永久就職! 死者の世界よりただいま参上!』
死神『決まった……! 一週間かけて練習しただけのかいはあった!』
紗希『あ、あの~。お、お姉さん、誰ですか?』
死神『いや、誰って――』
兄『というより、なんなんだ?』
死神『はぁ、ばっかだねぇ。あんたら兄妹ばっかだねぇ。だから今説明したじゃん。台無しだよ台無し!』
紗希『は、はぁ……』
死神『この世に命がある限り――』
紗希『いや、いい! もういいですから! それ!』
死神『とめんなよ! 格好いい登場シーン台無しだろ!』
紗希『いや、かっこ悪いです』
死神『がーん』
紗希『な、なんなんですか? 突然現れたこのお姉さんは! 赤のワンピースに真っ黒なマントに下駄という、ちぐはぐ格好。だけど、そんなちぐはぐ具合なんてどうでも良くなってしまうようなとんでもない物を持っています!それは――』
兄『とりあえず警察呼ぶか。紗希、電話。もしくは助けを呼べ』
紗希『う、うん。わかったよ。お兄ちゃん』
死神『あ、あーあーあー! ちょいまち、ちょいまち! わぁーった! 何が聞きたい!何でも答えるから一先ず落ち着け!』
紗希『あ、もしもし警察ですか? 今、変な人に声かけられて――』
死神『とりあえず、落ち着け(←優しく)』
紗希『いやぁあああああああああああああっ!』
紗希『ききききききられました! 携帯電話切られました! そうです! さっきから堂々と持っている大っきい鎌で真っ二つです!』
兄『じゅ、銃刀法違反という言葉を知らないのかお前はっ!』
死神『そりゃ、あんたら人間の法律だろ? あたしは死神だもん。関係ないね』
兄『し、死神?』
死神『そう。つーことで、あんたには成仏してもらうから』
兄『や、止めろ! 俺にはまだやり残したことが――』
死神『妹を呪い殺すことがあんたのやり残したことだって言うのか?』
兄『くっ』
紗希『お兄ちゃん……』
兄『そうだ。俺は紗希を殺さなくてはならない! あんな恥ずかしい言葉が最後の言葉なんて嫌なんだ!』
紗希『そんな……』
死神『やれやれ。しょうがないね』
兄『や、やる気か!』
死神『おーい』
紗希『死神さんは私たちの後ろに向かって声をかけました。……なんだろ?』
死神『そうそう、そこのあんた、ちょっと来てくれ。来てくれないと切っちゃうぞ?』
おっさん『わ、わしなんか呼んでどうするつもりじゃ』
兄『おっさん……?』
兄『死神と名乗る女が呼び寄せたのは、はげたおっさんだった。おっさんはぶるぶる震えながらゆっくりと歩いてくる』
死神『ちょっとこれ食ってくれ』
紗希『え、それって』
兄『ジーパンじゃないか』
おっさん『く、食う? な、何を言っているんだねキミは』
死神『ほら、食えよ。食わないと切っちゃうぞ?』
おっさん『む、無理だ! そんなものが食えるわけないだろう』
死神『大丈夫、ちゃんと日本人が大好きな醤油味にしといたから』
おっさん『そういう問題じゃない!』
兄『ま、まさか。止めろ!』
死神『あんたは黙って見てな?』
兄『鎌を首元に突きつけられる。く、くそこの鎌さえなければっ!』
死神『食え☆』
おっさん『む、無理だ!』
死神『食え☆』
おっさん『むりだっ!どうやって食えと』
死神『こうやってだ!』
おっさん『むごむがむがーっ!』
紗希『やめてっ! そんなの食べれるわけなじゃない!』
死神『食べれば命だけは助けてやる』
おっさん『むごむがーっ!』
紗希『やめてってば!』
紗希『私はおじさんの口の中に無理矢理詰められているジーパンを引っこ抜いた! なんなのよっ!』
おっさん『ごほっ! ごほっ! ごほっ! はぁはぁ……』
死神『食べれない?』
おっさん『当たり前だ!』
死神『食べれなければ死んでしまうとしても?』
おっさん『どっちにしろ死んでしまうわ!』
死神『……聞いたか?』
紗希『へ?』
紗希『お兄ちゃん? なんかお兄ちゃんの様子が変。俯いてぶるぶる震えて……』
死神『ジーパンは死ぬ気になっても食べられない。あんたはやっぱりアホだよ』
兄『う、うわぁああああああああああああああああ!』
紗希『お兄ちゃん! しっかりして!』
死神『大丈夫。あまりの恥ずかしさに自己消滅しようとしているだけだから。これで一件落着』
兄『コロス! 絶対コロぉおおおおおスっ!』
死神『なに!?』
紗希『お兄ちゃん!』
紗希『お兄ちゃんが鎌も恐れず死神さんに向かって駆け出す! 死神さんは鎌の柄でお兄ちゃんの突進を防ぎました』
死神『くっ! なんつー馬鹿力。あまりの恥ずかしさに暴走しやがった!』
紗希『ど、どどどうするの!?』
死神『手に、追えねぇ』
紗希『ええっ!』
死神『ぐはぁっ!(SEと同時)』
紗希『死神さん!』
兄『くくく。俺の秘密を知っている人間は全員あの世に送ってやる!』
紗希『止めて! お兄ちゃんはそんなことをする人じゃないでしょ? 元の優しいお兄ちゃんに戻ってよ!』
死神『無駄だ。あいつはあんたの本当の兄ちゃんじゃない。恥ずかしいという気持ちが暴走しただけの偽物なんだ』
紗希『そんな……きゃっ!』
紗希『お兄ちゃん……嘘だよ。お兄ちゃんはそんな酷いことしないもん。止めてよお兄ちゃ
ん!』
死神『こ、これは』
紗希『何この光は!』
良い兄『紗希……』
紗希『お兄ちゃん……っ!?』
兄『なんだてめぇは!』
紗希『お兄ちゃんが、二人? 空が真っ白に光ったと思ったらその中からお兄ちゃんが現れました。光の中のお兄ちゃんは優しそうで、でもとても悲しそうな顔をしていて』
良い兄『ごめんな紗希。兄ちゃん、確かに恥ずかしかった。けど、紗希を恨んでなんかいない』
兄『でたらめ言うな! 俺はこの秘密さえ消せれば紗希なんてどうでもいい!』
良い兄『だけどごめん。あの僕も確かに僕の一面なんだ。僕は恥ずかしいよ』
兄『そうだろ!? だったらお前も手伝ってくれ! 紗希を呪い殺すのを!』
良い兄『僕が恥ずかしいと言ったのは、お前を生み出してしまった僕自身のことだ。お前も僕と一緒に成仏しよう。そして次に生まれ変わる時はもっと優しい人間になろうよ』
兄『な、なんだと?』
良い兄『さぁ、いこう』
兄『や、やめろ! 俺はまだ成仏なんか! うわぁああああああああっ!』
良い兄『紗希』
紗希『お兄ちゃん』
良い兄『怖い思いさせてごめんな? でも信じて欲しい。僕の中には確かにあいつみたいな思いもあった。けど、それは一番じゃない。もっともっと大きな気持ちで、僕は紗希の幸せを願っているんだ』
紗希『うん』
良い兄『笑って過ごして。紗希が楽しそうにしているのが僕は一番嬉しい』
紗希『……うんっ!』
良い兄『じゃあ、元気で!』
紗希『お兄ちゃん!』
死神『紗希ちゃん。あいつの言ってたことは本当だ。所詮偽兄は小さな感情から生まれた存在。本物には手も足も出なかったのがいい証拠だ』
紗希『わかってる』
死神『……今度こそ一件落着だな。じゃ、帰るかな!』
紗希『死神さん』
死神『ん?』
紗希『ありがとう』
死神『……あたしはなんにもしてないぞ?』
紗希『お兄ちゃんが現れるようにあんなことしてくれたんでしょ? 私を元気づけるために』
死神『……どうかな』
紗希『私、頑張るよ。お兄ちゃん……』
隊長『……どうかな? じゃありませんよね?』
死神『すいやせんした』
死神『しっているだろうか? コンクリートの上で正座させられ50キロの重りを膝に乗せられるととんでもなく痛いことを。そう。あたしは今、お仕置き中だ』
隊長『何をかっこつけてるんですか? 完全にミスですよね? どうして鎌使ってさっさと成仏させなかったのか私には全くこれっぽっちも理解ができませんが言い訳があるようでしたら――』
死神『無理矢理成仏させるんじゃ可哀想だろ?』
隊長『恥の上塗りさせる方が可哀想だとは思わないんですかー』
死神『納得させてやった方があいつのためだと思っ――』
隊長『もう十分です。だからキミは万年三流死神なんです!お仕置き三時間プラスですね!』
死神『なっ! そんなに保つか! 死んじまうって!』
隊長『死神は死にません』
死神『そうだけど!』
死神『人を呪うような悪霊も元はただの人間だ。どうせ成仏させるなら納得してもらいたい。だからあたしは反省なんかしない。これからもこうやって人のため魂のために頑張るつもりだ』
隊長『その顔、反省のハの字もしていませんね? さらに一時間プラス!』
死神『ふざけんなぁ! 人事に連絡するぞ!』
隊長『どーぞどーぞ! やってください! キミの方がクビになると思いますけどねぇ!』
死神『んだと!』
紗希『これはちょっと怖くて優しい、変な死神さんの物語。――ありがとう。私は元気になれました』